大阪高等裁判所 昭和50年(ラ)39号 決定 1975年3月08日
抗告人
医療法人三上会東香里病院
右代表者
三上定清
右代理人
巽貞男
相手方
東香里病院労働組合
右代表者
平瀬武一
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一本件抗告の趣旨と理由
別紙記載のとおりである。
二当裁判所の判断
(一) 抗告理由第一点について
憲法第二八条の保障する団体交渉請求権が団体交渉の応諾を求める仮処分の被保全権利となりうるかどうかについては争いがあり、この点についての抗告人の所論には傾聴に値するものがある。しかしながら、たとえ所論の考え方をとるとしても、裁判所が一旦団体交渉を命ずる旨の仮処分命令が発せられた以上、右仮処分(決定)の相手方が右仮処分(決定)に対し異議の申立をして右仮処分(決定)の取消を求める場合は格別、右仮処分(決定)の執行裁判所としては、債務名義たる仮処分(決定)そのものの当否を判断することはできない筋合のもので、右仮処分(決定)の性質が間接強制になじむものである限り、右仮処分の執行としての間接強制の申立はこれを認容せざるをえないものと解するのが相当であるところ、一件記録によれば、本件申立は間接強制になじむものと認められるから、この点に関する抗告理由はこれを採用するに由ない。
(二) 抗告理由第二、第三点について
一件記録によれば、原審の決定がなされた後である昭和五〇年二月二四日午後二時より午後四時三〇分まで抗告人の病院内において本件仮処分(決定)に表示された事項につき当事者間で団体交渉が行われたこと、しかし結論をえなかつたこと、右期日に抗告人側から次回期日を昭和五〇年三月三日午後二時より開催したい旨申出したが、次回期日について双方合意に達しなかつたことが認められるけれども、その後、抗告人からの団体交渉の期日の申出や団体交渉が当事者間で開催されたこと、また、右団体交渉が実質的に回を重ね。双方当事者が誠実に議論を尽したことを認めるに足りる証拠はない。
以上の事実によると、本件仮処分の内容は未だ実現されたとは言えないし、本件仮処分の執行の必要性がなくなつたとは言えないから、この点に関する抗告理由もこれを採用するに由ない。
(三) その他一件記録を精査しても、原決定を取り消すに足りる違法の点も見当らない。
(四) よつて、相手方の間接強制の申立を認容した原決定は正当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。
(北浦憲二 弓削孟 光広龍夫)
抗告の趣旨
一、原決定を取消す
二、相手方の間接強制申立を却下するとの裁判を求める。
抗告の理由
一、本件決定の基礎となつた団交応諾の仮処分決定は被保全請求権の根拠となる実体法上の規定を欠き違法である。
即ち団体交渉についての規定は憲法二八条、労組法六条、七条、二七条にあるのみであり、このうち憲法二八条は、直接には労使間に具体的な権利義務を設定するものでなく、国家が同条にいう団体交渉権の実現に関与し助力する責務を負つているとともに使用者においてもかかる権利を否認しないようにすることを憲法上宣言されたものにとどまり、この規定に基いて、労働者が使用者に対し団体交渉に応ずることを求める請求権を有するものではない。
また労組法上の前記各法条は、使用者において不当団交拒否に対し労働委員会による救済を認めるのみで裁判上その実現を要求することの根拠たりえない。然し原決定はこれを看過し違法な仮処分決定を容認して間接強制の決定をなした。
二、本件決定は、抗告人において仮処分決定に従い誠実に団体交渉をなしているにも拘らず、この事実を誤認し間接強制の決定をなした。
即ち、抗告人は相手方に団体交渉の申入れをなし、団体交渉を行おうとしたが相手方の開催場所について異議を唱え、一方的に場所を指示し、抗告人指定の場所に来場しなかつた。そこで抗告人は再度場所を相手方に何ら不利益とならない場所を選定し団交の申入をなしたが、これについてもただ拒否するのみであつた。右抗告人の団交申入れについての態度が如何に労使自治を基調とする団体交渉の精神に適合しているかは、原決定裁判官において抗告人の申入れを相手方に受入れるよう要請があつたことから推定できるものである。
従つて、右団体交渉が相手方の自己本位な主張によつて拒絶され、開催できなかつたとしても、抗告人の責任ではない。すると仮処分決定の団交応諾はなされており、これをないものとしてなした原決定は履行を強制すべき債務名義が存在しないものに対してなしたことになり違法である。
三、仮に右主張が容れられないとしても、間接強制は履行をなすべきものの存在を前提とし将来の不作為についてなすことは許されない。団体交渉が仮になされていないとしても、その不履行の事実が一時的に発し、これが終了した後は履行されているのと同じ状態におかれるものであり、然るところ本件決定は右関係にある事実を前提として間接強制の決定をなしたのであり違法である。